専門看護師とは
専門看護師とは、日本看護協会の専門看護師認定資格に合格した、ある特定の専門看護分野において卓越した看護実践能力を有すると認められた看護師のことです。
現在の専門分野は、がん看護、精神看護、老人看護、地域看護、母性看護、慢性疾患看護、小児看護、急性・重傷者看護、感染症看護、家族支援、在宅看護の11分野です。
複雑な看護問題を抱える個人やその家族に対して高い水準の看護ケアを提供し、看護に関わる知識や技術の向上に貢献することが目的です。
専門看護師の役割
日本看護協会では専門看護師の役割について下記のように定めています。
- 個人、家族及び集団に対して卓越した看護を実践する。(実践)
- 看護者を含むケア提供者に対しコンサルテーションを行う。(相談)
- 必要なケアが円滑に行われるために、保健医療福祉に携わる人々の間のコーディネーションを行う。(調整)
- 個人、家族及び集団の権利を守るために、倫理的な問題や葛藤の解決をはかる。(倫理調整)
- 看護者に対しケアを向上させるため教育的役割を果たす。(教育)
- 専門知識及び技術の向上並びに開発をはかるために実践の場における研究活動を行う。(研究)
専門看護師の特定分野
専門看護師の特定分野は2016年12月現在で13分野あります。それぞれの分野に分けられている背景は独立した専門分野として知識や技術を深めることで、より専門的で高度な看護を提供するためです。
分野名 | 特徴 | 人数 |
---|---|---|
がん看護 (1996.6〜) |
がんそのものや治療による副作用による身体的・精神的な苦痛を理解し、適切な臨床判断の下、患者やその家族に対して高度な看護を提供する。 | 435人 |
精神看護 (1996.6〜) |
精神疾患患者が抱える問題に対して、高度な看護を提供します。また、一般病院でも心のケアを行う「リエゾン精神看護」の役割を果たします。 | 145人 |
地域看護 (1997.6〜) |
産業保健、学校保健、保健行政、在宅ケアの領域において高度な看護を提供します。地域の保健医療福祉職に対して、ケアの調整・統合・組織化をコーディネートする役割もあります。 | 26人 |
老人看護 (2002.5〜) |
高齢者が利用する施設(病院や介護施設)において、認知症や摂食・嚥下障害、排泄障害などの複雑な健康問題を持つ高齢者に対して高度な看護を提供します。 | 55人 |
小児看護 (2002.5〜) |
小児がんをはじめとする治療が困難な病気を抱える子どもたちが健やかに成長・発達していけるように高度な看護を提供します。家族のサポートも重要な役割です。 | 96人 |
母性看護 (2003.11〜) |
女性が妊娠・分娩・出産の過程で起こる生 理的・身体的変化による諸問題について、心身にわたる健康上のサポートをします。 |
44人 |
慢性疾患看護 (2004.3〜) |
生活習慣病などの慢性的な心身の不調を抱える人々に対して高度な看護を提供します。慢性疾患の管理、健康増進、療養支援などが主な役割です。 | 84人 |
急性・重症患者看護(旧クリティカルケア看護) (2005.3〜) |
緊急度・重症度の高い患者に対して専門的で高度な看護を提供します。患者とその家族の心身の負担に配慮したサポートが求められます。 | 114人 |
感染症看護 (2006.11〜) |
疫学や統計学の知識を活用し、施設や地域の感染症予防、及び感染症発生時の適切な対処に従事するとともに、感染症の患者に対して高度な看護を提供します。 | 22人 |
家族支援 (2008.11〜) |
患者の回復を促進するために患者の家族を支援します。家族看護ができるようにすること、家族のセルフケア能力を高めることが主な目標です。必要に応じて家族と医師の間に立ち、調整を行うことも重要な役割のひとつです。 | 21人 |
在宅看護 (2012.12〜) |
在宅で療養する患者とその家族が、日常生活を送りながら在宅療養を続けられるように支援します。訪問看護ステーションなどのケアサービスとの連携を促進し、適切なケアシステムを構築する役割も担います。 | 6人 |
遺伝看護 (2016.11〜) |
対象者の遺伝的課題を見極め、診断・予防・治療に伴う意思決定支援とQOL向上を目指した生涯にわたる療養生活支援を行い、世代を超えて必要な医療・ケアを受けることができる体制の構築とゲノム医療の発展に貢献します。 | 0人 |
災害看護 (2016.11〜) |
災害の特性をふまえ、限られた人的・物的資源の中でメンタルヘルスを含む適切な看護を提供する。平時から多職種や行政等と連携・協働し、減災・防災体制の構築と災害看護の発展に貢献する。 | 0人 |
※人数は2016年12月時点
専門看護師になるには
専門看護師になるためには保健師、助産師、看護師のいずれかの免許があることが大前提となります。
その上で、実務経験が通算5年以上で、そのうち通算3年以上は取得を希望する専門看護分野での経験が必要です。
その上で看護系大学院の修士課程(2年間)に入学し、日本看護系大学協会専門看護師教育課程基準で定める26単位または38単位を取得します。
無事に修了することができれば、日本看護協会が1年に一度行っている認定審査(書類審査と筆記試験)を受けます。審査に合格し、登録手続きが完了すれば、専門看護師として認定してもらうことができます。資格の有効期間は5年です。
専門看護師になるまでの手順をチェック!
事前準備 | 1.保健師、助産師、看護師のいずれかの免許を有すること 2.実務研修が通算5年以上あり、うち3年間以上は専門看護分野の実務研修であること |
|
---|---|---|
STEP:1 | 看護系大学院修士課程入学・修了 (所定の26単位または38単位を取得) |
2年間の長期にわたって大学院生として実習や勉強、研究に専念することになるため、病院で勤務している場合は基本的に休職、退職した上で入学することになります。ただ、病院とのつながりは大学院で研究する際にも役立つため、アルバイトとして病院に勤務し続けるひともいます。 |
STEP:2 | 認定審査 (一次:書類審査、二次:看護実績報告書・筆記試験)合格 |
専門看護師の認定審査は1年に1回、日本看護協会が実施しています。7月中旬に受付を開始し、11月1日に筆記試験が行われるのが通例となっています。合格率は平均して95%前後となっています。 |
STEP:3 | 専門看護師認定証交付・登録 | 審査に合格すれば認定料として5万円を振り込み、認定情報を登録すれば認定証が交付されます。認定証の有効期間は交付日から5年です。 |
取得後 | 5年ごとに更新 (看護実践の実績、研修実績、研究業績等書類審査) |
専門看護師のレベルを保つために認定証の更新制度があります。認定を受けた専門看護師は、認定を受けてから5年ごとに更新審査を受ける必要があります。 |
専門看護師になるための支出
専門看護師になるためにはお金が必要です。大学院の入学金や授業料だけでなく、専門看護師の認定審査料や認定後の登録料もかかります。
また、大学院に通っている2年間は仕事との両立は難しく、ほとんどが休職・退職することになるため、日々の生活費も確保しておかねばなりません。
2年間でどんな支出があるのか。大まかに計算すると下記のようになります。
学費:220万円
本代:10万円
審査料:5万円
登録料:5万円
生活費:500万円
————————
730万円
生活費は家賃6万円のアパートに一人暮らししていうものとして仮定しています。生活費には家賃の他、光熱費、食費、国民年金、健康保険などを含みます。
これがもし実家暮らしであれば、家賃や光熱費などが不要になるので、2年で300万円くらいですみます。そうなれば支出は530万円となります。
必要な貯金の金額
具体的にどれくらい貯金が必要なのかは、アルバイトをするかどうかやどれくらい奨学金がもらえるかによって大きく異なりますので一概にこれというものを示すのが難しいですが、仮に年額60万円の奨学金を2年間もらえるとすると合計で120万円ですので、740万円から120万円を引いて、610万円の貯金が必要であるということになります。
さらに年間100万円くらいアルバイトをすることが可能であれば、600万円から200万円を引いて、420万円の貯金が必要ということになります。これが実家暮らしであれば、さらに200万円を引いて220万円になります。
これらをまとめると、最低でも200万円、できれば600万円の貯金が必要になるということが分かります。
なお、ここでは一般的な金額を元に計算しているだけですので、ここでの数字は参考程度にとどめるようにしてください。また、学費についても私立か国立かによっても異なりますし、どの大学院にいくかでも全然違ってきます。
入学を予定している大学院の入学金や授業料は事前に調べ、どんな奨学金が利用できるかを調べた上で、どれくらいの貯金が必要になるかを自分で計算するのがよいでしょう。
専門看護師の給料・年収はどれくらい?
専門看護師は一般の看護師よりも多くの知識や技術をもっていると判断されるため、給与は高めになります。給与ではなく資格手当てというかたちで上乗せしてくれる場合もあります。
金額にして月額で1〜3万円程度、年収にして10〜30万程度は高くなります。看護師の年収の平均が471万円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)ですので、これが470〜500万程度になるようなイメージです。
ただし、専門看護師は救急専門の場合を除いて夜勤ではなく日勤になりますので、夜勤手当がつかなくなる分だけ専門看護師の資格を取る前よりも収入が少なくなることもあります。
夜勤中心で勤務していたひとは特にそれが顕著になります。
専門看護師の資格を評価してくれる医療機関を選ぶ
専門看護師の歴史はまだまだ浅いため、医療機関によってその評価がまちまちになっているのが現状です。
なので、年収アップを目指すのであれば、少しでも専門看護師の資格を評価してくれる医療機関を選ぶことが大切です。
専門看護師をきちんと評価してくれる医療機関であれば、給与や手当ての面で大幅なアップが期待できますし、資格の専門性を活かしたキャリアの形成を手助けしてくれます。
これから専門看護師の資格を取ろうと考えているひとをサポートしてくれる医療機関もありますので、まずはそういうところに転職してから専門看護師を目指すことで、年収アップだけでなく、安定した看護師としてのキャリアを築くこともできます。